故障するだけで生まれる膨大な利益と、どうやってそれが維持出来て来たのか。一消費者としても知っておきたい企業の裏側です。
アメリカでは「マックのソフトクリームは基本故障中と思え」というのはほぼ常識。
日本人なら故障中なら仕方ないよね~と思ってあまり気にしませんが、クレーム大国アメリカということもあり文句を言う人はかなり多いそうで。
実際アメリカ全土のマックでどれくらいソフトクリームマシン故障中なのか、リアルタイムマップを公開している個人サイトすら作られてます。 この画像時点だとサンディエゴが33%でダントツ故障中。膨大なアメリカ全土の店舗で平均しても10%を超えるという驚異の故障率っ……! そりゃ客もプンスカします。
インターネットで「マクドナルド名物のマックブロークン」とネタにされ続けた結果、ウォールストリートジャーナルやビジネスインサイダーといった大手メディアでも取り上げられることに。
大抵のメディアが行きついた結論としては「正確には故障しているのではなく、清掃メンテナンスに4時間かかるから」というものでした。
なるほど、長時間のメンテナンスで使えないから手っ取り早く「故障」と説明しているのね……と大体の人は納得し、ネットを騒がせていた「マクドナルドのソフトクリームマシンの謎」は一件落着したわけです。
でもそれは本当の理由じゃなかった。
試しに動画作者がウェンディーズに行ってフロスティを注文しながら店員に聞いてみます。
作者「マックのソフトクリームマシンっていつも壊れているんだよね。ウェンディーズでもよく故障するの?」
店員「いいえ。うちは毎晩洗浄してて大丈夫。」
作者「それって大変な作業なの?」
店員「正直とても簡単よ。マックは怠けてるんじゃない?」
さすがウェンディーズ、辛辣!
さて、ここで一つ疑問が生まれます。なぜウェンディーズではマックのような故障問題が起こらないのか?
ウェンディーズはマシンに金を掛けていて高機能で優秀なものを使っているのか?
いいえ……なんとウェンディーズは、マックと同じメーカーの機械を使っているんです!
ウェンディーズだけじゃなく、バーガーキングなど他にも様々なファストフードチェーンで、TAYLOR(テイラー)という会社のソフトクリームマシンが使われています。
それでも故障がネタにされるほど頻繁なのはマクドナルドだけ。いったいなぜなのか?
マクドナルドで使用されているのはTAYLOR社のC602というマクドナルド専用モデル。
実はこのテイラー社とマクドナルドの提携は、創業初期まで遡れるほどの古い関係。イリノイ州で数キロほどしか離れていない「お隣さん」会社でした。
2003年のC602販売開始以降は、マクドナルドのフランチャイズ全店はこのマシンしか使用できない契約を結ばされます。
フランチャイズでは数種類の機械からオーナーが選べることが多いのですが、マクドナルドのソフトクリームマシンについては2017年にCarpigiani(カルピジャーニ)社のマシンが追加されるまで、長年1社独占でした。
ソフトクリームの食品安全性を保つため、このC602は毎日約66度まで加熱し、機械と中のソフトクリーム液を殺菌する仕組みになっています。(正確には華氏151度)
加熱処理が終わるとクールダウンし、再び冷凍温度まで下げてソフトクリームとして販売できるようになりますが、かなり時間が掛かります。これが前述の「メンテナンスに4時間かかる」という話ですね。
閉店後の夜中にメンテ開始して、翌朝無事成功していれば問題ないのですが、少しでも異常があるとメンテ失敗の表示やエラーコードが出て、マシンはロックされ使えなくなります。
たった華氏1度ズレただけでも、店員には理解できないエラーコードだけが表示され「何が原因なのか」「どうすればいいのか」はさっぱり分かりません。
仕方がないので、修理サービスを呼ぶわけです
修理はもちろんテイラー社の修理マンが来ます。これも契約で決まっていて、テイラー社にしか修理依頼してはいけないのです。
金額はケースバイケースらしいですが、とある領収書を見てみると、なんと最初の30分で144ドル、その後は15分ごとに315ドルも作業費を取られています。
1時間修理に時間がかかったとしたら、日本円で8万円以上もの高額な修理代になるわけですね。
見て下さい、このC602のインターフェース。まるで80年代だと動画作成者も評しているくらいの古臭さ。
肝心のエラーコードの意味はユーザーには秘密にされ、エラーが出続けるかぎりマシンが使えない。客たちはマックフルーリーが食べたいと怒る。
2017年まで、フランチャイズ加盟店のオーナーたちは泣く泣く高額な修理費を毎回払ってこのポンコツマシンC602を使い続けなければいけなかったのです。
それにカルピジャーニに乗り換えたくても、18,000ドル(約200万円)もした機械を捨てて同じくらい高額な機械を買い直すというのは難しい加盟店も多い事でしょう。
数年前にテイラー社が作ったピッチ資料によると、同社の収益の25%は修理と保守部品販売で占められているとのこと。
4分の1が、毎年継続的に発生する「経常収益」なわけです。おそらくその中でもマクドナルドは特にお得意様でしょう。
さてこのおびただしい量の修理が依頼されるC602に対し、テイラー社は2003年以降、内部ソフトウェアを数回アップデートしてきました。
しかし追加されたのは謎のエラーコードがもっと表示されるという無駄機能だけ。
例えばC602のエラー原因でとてもよくあるケースが「ソフトクリーム液を入れすぎて加熱/冷却に時間が掛かりすぎ、目標の温度に数度足りなかった」というもの。
だから「量を減らして再度お試しください」と表示する、もしくはマニュアルで指示するだけでもかなり成功率が上がるはずなのに、それすらしない。
マニュアルにはエラーの詳細や対処法は記載されておらず、サービスマンを呼べの一点張り。
なぜならテイラー社には改善してもメリットが無いからです。どんなに不評なマシンでも、マクドナルドが使用を義務付ける限りがっぽり修理費用を頂けるんですから。
そして費用は各オーナー持ちでマクドナルド側がなにも損しない状態なので、テイラー社にずっと独占され続けてきた……というわけ。
工業製品において欠陥の発生率というのは1%以内に抑えるというのが普通です。(特に99.99966%で正常品質を保つシックスシグマという品質管理手法が有名)
動画作成時点でのアメリカ全土でのマックブロークン率はなんと15%。異常すぎる。
競争が発生しない1社独占、改善しなくても儲かる仕組み……むしろ改善しない方が儲かる機械が生み出した結果がこれです。
一方でこの状況を打破しようと立ち上がったのがJeremy O’SullivanとMelissa Nelson。2人はKytchというC602用のサードパーティガジェットを開発しました。
このガジェットをC602に取り付けてWi-Fiでスマホと接続すると、様々なエラーに対処できるようになるスグレモノ。原因や対処法がはっきり分かるので、店員が同じミスを繰り返さないように改善することもできます。
(ちなみに開発者のJeremyはこの動画作者に連絡を取り、搾取の状況を告発した本人でもあります)
発売後すぐに、Kytchはアメリカ全土のフランチャイズオーナーたちの間で評判のヒット商品となりました。
昨年行われたフランチャイズオーナーたちによる会合では、代表メンバーが「マクドナルドが認めている製品ではない」としつつも「問題発生時に有力な情報が得られ、より素早く解決できる」と評する場面も。
ですがその直後、マクドナルドは全フランチャイズに対し「Kytchを使用するのは非常に危険」であり「深刻な安全性の問題がある」と通達。Kytchを使用した時点で保証対象外とすると念押ししました。
重要な問題解決ができる製品に対し、開発者に連絡して提携することもできたでしょうに、有無を言わさずブラックリスト行きです。
なぜそんなことを? と動画作成者が直接マクドナルドに疑問をメールしたところ、広報からは「提携しているメーカーと問題解決の手段を検討中」との返答が。
つまり「大丈夫、公式でKytchの代替品を作ってるから!」ということ。 これで本当に一件落着……するわけもなく。
ここまで何もしてこなかったマクドナルドが簡単に方針転換するはずありません。この公式代替品を手掛けるメーカーは案の定、テイラー社と同一の親会社をもつ兄弟会社でした。
そして代替品というわりにKytchのように有益な情報を提供せず、肝心な所は秘匿しているらしく、劣化品でしかない状況。
つまりサービスマンにしか分からないエラーコードを吐いて、とにかく修理を呼ばせようとする以前のシステムと大して変わりがないわけです。
マクドナルドとテイラー社にしてみれば、昔からの仲良し企業が協力し利益を生み出し続ける経済的戦略かもしれません。
しかしながらそれはフランチャイズオーナー達からの搾取と、顧客体験の低下によって成り立っています。
このことがもっと広く知られれば……この不公正なシステムが少しは改善される可能性もあるでしょう。
動画作者は最後にこのように言っています。
「次にマクドナルドへ行ってソフトクリームが故障中だったら……その理由は従業員が怠けているわけでも、研修が足りてないわけじゃないんだよ。変化を拒む、古い企業2社のせいなんだ」
日本ではよく「古い企業体質」が問題になりますが、アメリカでも同じなんですね。
なお国内でもテイラー社のマシンは使われていましたが、2018年頃からは日本でもカルピジャーニに切り替える店舗が確認されています。
ちなみに米マクドナルドはフランチャイズ比率が高く、なんと95%の店舗がFC! 直営はたったの5%です。
一方日本は70%がフランチャイズで30%が直営店という比率。
日本のマクドナルドではフランチャイズオーナーから搾取するような、こんなあくどい事は行われていないと信じたいものです。
海外の反応
◆CNNはなんでたかがYoutuberが自分たちより視聴されているのか不思議だろうな。これが綿密なジャーナリズムというものですよ。
◆つまり「マクドナルドではなく、ウェンディーズに行け」という事ね。
◆フランチャイズオーナーはマクドナルドとテイラー社を集団訴訟するべきでしょ。
↑むしろ、なんで訴訟が起きてないのか不思議なレベル。
↑契約で訴訟しないように縛ってるんじゃないかな。
◆「保証対象外」ってさぁ……修理に金払う時点で保証も何もないよね(笑)
↑ほんとそれ。保証ってなによ? 故障する度に何も保証してくれないこと?
↑パーツ代はタダになる保証なのかな。その代わり修理作業は実費。
↑テイラー社に頼まなきゃそもそもパーツは手に入らないだろうしね……。
↑俺が店長だったら「それでいいよ」って言ってそのままKytch使い続けるわ。
↑保証が無ければ、例え金払っても修理してくれないって事じゃない?
◆独占は全ての人に損をさせるもの。独占企業たちとは戦わなきゃ。こんな悪質なものとは特に。
◆この動画がめちゃくちゃバズりますように。良い方向に変化するにはそれしかもう手が無い気がする。
◆動画のテーマに全然興味が無かったのに、この人の調査報道スキルが凄すぎてつい最後まで見ちゃった……。
◆この真実に激怒している皆さん、世の中にはアップルという会社がありましてね……。
↑ iPhone 6使ってて最初は良かったんだけど、iPhone X proが出た頃に使い物にならなくなった。8割までしか充電できないし、バッテリーの消耗が速くなったし、Wifi環境がどんなに良くてもYoutube開くのに大抵20分は掛かる。Appleは確実に悪徳企業。
↑だから俺はAndroid派です。
↑あいつらうちの80歳の母親に、保護フィルム貼るだけで50ドルも請求してきやがったわ……。今まで好きになったこともないし、アップルの製品はこれからも一生使う気ないね。
◆冗談抜きで、この動画は何かの賞をとってもおかしくないと思う。
◆素晴らしい。ただの陰謀論じゃなくて、ちゃんとしたリサーチを基に見事に説明してるよね。作者の動画の中でも過去最高の出来じゃないかな。
◆まさか30分もマクドナルドのソフトクリームについての動画を見るとは思いもしなかったわ。
◆こういう情報のためにインターネットはあるんだよ。マクドナルドのソフトクリームマシンなんて一切興味ないけど、豊かな才能で作られた動画で30分間興味深々だったね。驚きだよ。
◆テイラー社って、選挙用の機械も作ってたりしないのかな~。
◆アップルとあそこの修理サービスとやってること同じじゃん。
◆マクドナルド側も、修理が発生する度に何かしら裏で貰ってるんじゃないの?
◆ウェンディーズの毒舌っぷりは相変わらずなんすね……。
◆マクドナルド側のメリットは何なんだろうね。修理のたびにテイラー社が儲かって、フランチャイズ加盟店側が損をするのはよく理解できたけど。テイラーからマクドナルドにキックバックでも支払われてるのかね?
↑それなんてマフィア?
◆俺はこれ以上マクドナルドへの信用は落ちないってとこまで落ちてたんだけど……そんな中、この動画がアップされたわけですよ。
◆良い動画だった。仕事で修理マンやってるけど、メーカーのやり方には呆れる事がかなりある。
◆ちょうど今朝マクドナルドに朝食食べに行ったけど、やーっぱり故障中だったわ。
◆この動画見たら、やっとこさソフトクリーム売ってるマックに出会ったときの記憶が、まるで歴史に残る貴重な瞬間のように思えてきた(笑)。
◆XboxとPlayStationという二つの選択肢があるのがいかに素晴らしいことかよく分かるね。
↑携帯ゲーム機のニンテンドースイッチの競合としても、彼らには頑張ってもらいたい。良いゲーム機だけど、たとえ1社でも競争相手がいるとより良くなるものだからさ。
↑80年代のベータマックスとVSHを思い出すね。
一方は高画質を売りにして、もう一方は安さで勝負した。
◆高校の時マックでバイトしてたけど、なるほど納得。
◆マックの店員:「すみません、ソフトクリームは機械の故障中でして」
客:(「超サイヤ人怒り」に変身)
↑だってストロベリーミルクシェイクめっちゃ飲みたかったんだもん……。